研究紹介

研究テーマ
ラン藻の環境適応機構の解明と産業利用
ラン藻(シアノバクテリア)という植物プランクトンをご存じでしょうか?ラン藻は地球上の至るところに分布しており、中には砂漠や塩湖などの極限環境でも生育できる種が存在します。私たちは、ラン藻がどのようにして様々な自然環境に適応できるのか、その仕組みを明らかにするために研究しています。また、このような基礎研究に加えて、ラン藻がつくり出す有用物質の探索にも力を入れています。最近では、福岡県朝倉市の黄金川にしか自生していない「スイゼンジノリ」という日本固有の食用ラン藻から、環境ストレス応答性の新奇な紫外線吸収物質を見つけました。サンスクリーン剤など、天然由来の化粧品原料として利用できる可能性があり、目下研究中です。
当研究室では、新しいことにチャレンジしたい方を応援します。未経験でも問題ありません。意欲的な大学院生の参加をお待ちしています。

タイの塩田でラン藻を採取

スイゼンジノリの培養

誰もが心の健康を保ち、希望をもって生きられる社会に
志村ゆず 教授
人間学部 人間学科 教授 / 総合学術研究科 教授
生涯発達心理学、老年心理学
受賞歴
日本認知症ケア学会 平成13年度認知症ケア学会石崎賞受賞、痴呆ケア学会 平成16年度痴呆ケア学会石崎賞受賞
研究テーマ
多様な社会に合わせた心理学的支援に関する研究
現在取り組んでいる研究テーマは、主に三つあります。1.高齢者の心理学的支援、2.人生の歴史を聴く取り組み、3.支援者支援になります。1.については少子高齢化社会の中で、高齢者と取り巻く人々の心理学的健康や支援について研究を重ねることは、社会全体の心の健康につながると考えています。これに関しては、レミニッセンス・セラピーという心理学的支援の方法を開発したり効果を検討したりすることについて、現在まで研究を重ねています。2.については、難民支援や社会的に生きづらさを抱えている人々について、心理教育的側面からアプローチすることを考えています。具体的にはストレスの多い災害状況から心理的に復帰していくための方法について考えることです。やはり人生の歴史を聴くという取り組みはアイデンティティを強化し自己肯定感を高めるための支援だと考えています。人生の歴史を傾聴することは、心の回復を促す一つの手がかりではないかと考えています。3.では、何も対策のないまま、心の状態が深刻な人の支援を行わざる得ない人の支援です。どのような備えを持ち支援者ストレスの対策を行うことが大切かを考えることで、共助の姿勢につながるものと考えられます。以上が私の研究の紹介になります。どうぞよろしくお願いいたします。

回想の手がかりになる写真例(夏の空)

回想の手がかりになる写真例(田圃)

画期的な抗うつ薬の開発を目指して
衣斐大祐 准教授
薬学部 准教授 / 総合学術研究科 准教授 /
薬学研究科 准教授
分子神経薬理学
研究テーマ
難治性うつ病治療に関わる神経基盤に基づいた創薬を目指して
うつ病は気分が落ち込んだりする症状が長期に続き、日常生活に大きな支障を来す精神疾患です。現在、日本で承認されている抗うつ薬による治療では効果発現までの時間が長いこと、再発率が高いことなどの問題を含んでいます。最近、マジックマッシュルームの幻覚成分「シロシビン」が難治性うつ病に対して、即効かつ持続的な抗うつ効果を示すことが報告され、世界的な注目が集まっています。しかしながら、シロシビンの抗うつ効果に関わる脳機構は未だ不明です。我々の研究グループはマウスを用いた研究から、シロシビンの抗うつ効果に関わる神経基盤を発見しました。その神経基盤の活動を人工的に操作することで抗うつ行動を制御でき、また神経活動を可視化すると、シロシビン投与によってその神経系が活性化していることが分かりました。今後は我々が発見した神経基盤を標的とする新たな抗うつ薬の開発を進めています。

図1:うつ病の約30%は適切なうつ病治療を行っても、緩解しない治療抵抗性(難治性)うつ病とされています。

図2:シロシビンの抗うつ作用に関わる脳基盤
我々の研究結果から、シロシビンはある特定の脳領域に存在するセロトニン受容体に作用し、抗うつ作用を発揮することが示唆されました。

幼少期の運動は未来を創る
香村恵介 准教授
農学部 准教授 / 総合学術研究科 准教授
スポーツ健康科学、発育発達学
受賞歴
日本発育発達学会 第10回大会優秀研究発表賞、東海体育学会 第60回大会学術奨励賞、日本運動疫学会 第19回運動疫学セミナー最優秀発表賞
研究テーマ
子どもの運動・スポーツの未来を拓く
当研究室では、子どもたちが生涯にわたり運動・スポーツを楽しむことができるように、子どもの身体活動や運動能力に関わる研究を進めています。
2023年度からは、笹川スポーツ財団と「全国の幼児を対象とした運動実施状況に関する調査研究」を開始しました。日本の幼児の基礎データを明らかにするとともに、縦断的な全国調査に発展させていく予定です。また、理工学部の研究室と共同し、加速度計を用いて1~2歳児の身体活動量や行動パターンを測定するための研究も行っています。
他にも、町内会単位で公民館を活用して幼児の運動遊びを展開する取り組みも進めています。子どもの運動発達が促進されることはもちろん、子育て世代の交流が促進され、人と人とがつながる豊かな社会の実現に貢献できる可能性があります。
心も体も活力ある子どもたちを育むことは、日本の、そして世界の未来をつくることにつながると考えています。

加速度計を装着している場面

モールの空き店舗を活用して子どもの運動遊びをしている場面

CO2から化成品を製造する未来がやってくる
神藤定生 准教授
理工学部 准教授 / 総合学術研究科 准教授
応用微生物学、分子生物学
研究テーマ
シアノバクテリアによる
CO2を資源としたエチレン生産
SDG 'sの分類 13気候変動対策
現在の社会はプラスチック製品の大量生産によって支えられています。このため、その原料となるエチレンは極めて重要な工業用ガスでありますが、ナフサを由来とする既存のエチレン製造はエネルギー大量消費型プロセスである事が知られています。いっぽう、資源枯渇や気候変動などの課題が顕在化するなかで、CO2削減や脱石油依存社会の実現は喫緊の課題であります。そこで、我々は石油に由来せず、光と大気中のCO2で光合成するシアノバクテリアに合成酵素を導入し、CO2をエチレンへ変換できる革新的なエチレン生産系を開発しました。既存のシアノバクテリア株は1日かけて12gのエチレンを合成するものの1回しか生産できず生産効率が低かったが、本組換え株では、7日間連続(7.2 g/day)でエチレン合成をすることができ、4.2倍に生産効率が改善し、実用化に大きく近づきました。

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研究テーマ
シス-トランス異性体の制御による機能性成分の高度化への挑戦
当研究室では、「似て非なる」性質をもつシス-トランス異性体に着目し、研究を進めています。具体的には、食品や化粧品に含まれる機能性成分を対象に、二重結合の効率的な異性化技術を開発し、それに伴う生理機能や物理化学的性質の変化を調査しています。こうした異性化による変化を活用することで、機能性成分の高付加価値化や加工技術の高度化を目指しています。
近年は、強力な抗酸化作用をもつカロテノイド類の異性化による高吸収化・高機能化や、健康への悪影響が懸念されるトランス脂肪酸を低減する技術の開発などに取り組んでおり、民間企業や大学研究機関と連携して研究を進めています。これらの研究を進める中で、異性体間に見られる「似て非なる」性質に日々驚かされるとともに、異性体研究の大きな可能性を実感しています。
当研究室では、他学部や他大学の学生、社会人の方など、さまざまな背景をもつ方々との共同研究を積極的に受け入れています。本研究活動にご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

亜臨界水を用いた食品成分異性化の実験風景

機能性成分の異性体を測定する分析装置